
ベテランエンジニアが「老害」とまで呼ばれる中、気づけば新卒のインフラエンジニアとして転生していた物語です。若い体で再びゼロからインフラ技術を学び直す姿を描いています。この物語を通して、インフラエンジニアとしてのスキル習得のロードマップを自然に学ぶことができます。
< プロローグ
第1章:新入社員研修
1.1 ITインフラの基礎
「これが今のインフラエンジニアの技術か……」
入社後の研修で、まず取り組むことになったのは、インフラエンジニアとしての基礎知識の習得だった。
研修室のデスクの上には、「インフラエンジニアスキルロードマップ」と書かれた分厚い資料が置かれている。その目次をざっと眺めると、以下のような項目が並んでいた。
インフラエンジニアスキルロードマップ 目次
ネットワークの基礎
OSI参照モデル
TCP/IPプロトコル
LANとWANの違い
サーバーの基礎
物理サーバー vs 仮想サーバー
仮想化技術の概要
コンテナ技術とその応用
セキュリティの基礎
ファイアウォールとVPN
ネットワークセグメンテーション
ソフトウェア定義ネットワーク(SDN)
クラウドコンピューティング
パブリッククラウド vs プライベートクラウド
クラウドインフラの設計
クラウドセキュリティ
自動化と監視
インフラの自動化ツール
サーバーモニタリングの手法
可観測性(Observability)とログ管理
フルマネージドサービス
SaaS, PaaS, IaaSの違い
マネージドサービスの活用
現代のインフラ管理
「仮想化、クラウド、コンテナ……何だこれ……?」
俺は物理サーバーまでしか知識を持っていない。新しい技術が台頭していることは知っていたが、学ぶことを怠っていたため、それ以上の知識はない。研修資料に書かれた言葉が、まるで暗号のように見えるのは当然だ。自分自身がどれだけ成長を怠り、取り残されていたかを痛感し、恥ずかしさすら感じていた。
「仮想化か……名前は聞いていたけど、俺は物理サーバーまでしか勉強してこなかったんだよな……」
知っていたはずの技術が、今では当然のものとして扱われている。しかし、実際にその技術を理解し、使いこなすための知識は俺には欠けていた。過去に新しいことを学ぶことを避け続けたツケが、今になって一気に押し寄せてくる。
まずは「ネットワーク基礎」から取り組むことになった。かつて学んだことのあるOSI参照モデルやTCP/IPプロトコル、LAN、WANの概念。これらは昔から知識としてはあったが、今やそれらは仮想化技術やクラウドと密接に結びついており、俺の知っている「ネットワーク」とはまるで違うものになっていた。
「新しいことを学習してこなかった自分が恨めしい……」
俺は自分の無知を悔やみながらも、仮想化技術についての勉強を始めた。VLAN(仮想LAN)やVPN(仮想プライベートネットワーク)、そしてソフトウェア定義ネットワーク(SDN)といった技術が、今では標準スキルとなっている。
特に衝撃的だったのはSDNだ。昔はネットワーク機器を1台ずつ手作業で設定していたのに、今ではソフトウェアで全てを一括管理できる。技術の進化は俺の想像を遥かに超えていた。
「なるほど、これが今のインフラ管理か……」
俺は軽くため息をつきながら、パソコンに向かう。エンジニアとしての自信は、もはや完全に崩れ去っていた。自分の知識がどれだけ時代遅れか、痛感させられる瞬間だった。
「悔しいけど、全く勉強してこなかった俺の知識は新卒レベルってことか……。そりゃ、若手にもバカにされるよな……」
手元の資料を睨みつけながら、俺は自分の過去の怠慢を後悔した。しかし、ここで終わるわけにはいかない。再び這い上がるためのチャンスがある――そう信じて、俺は必死に前を向いた。
1.2 ライバルとの出会い
研修が進む中、俺はある男に出会った。名前は岡田。端正な顔立ちに、目を引くほどの鋭い眼光。そして何より、その技術習得のスピードが尋常ではなかった。
彼は、ただの新人ではなかった。大学時代にはインフラソリューションで有名な大手企業でインターンをしており、実践経験も豊富だという。入社時から「即戦力」として周囲の期待を一身に背負っていた。しかも、就職せずに起業を考えていたらしいが、「あせらず社会人として世の中の仕組みを学ぶために」と、あえてこの会社に来たという。
一方、俺も新人としては決して無名ではなかった。いくら勉強を怠っていたとはいえ、前世での長い社会人経験やエンジニア歴のおかげで、エンジニアリングの基本的な知識には一日の長があった。研修では、基礎的なビジネスマナーやエンジニアとしての思考法で、他の同期から一目置かれる存在にはなっていた。
だが、肝心のインフラ技術の知識が全くない俺は、インターンや実践経験豊富な岡田にだけはまったく太刀打ちできなかった。講師の説明に追いつくのがやっとの俺と違い、岡田は即座に理解し、さらに深く質問を重ねる。その姿を見るたびに、まるで別次元の人間と仕事をしているような気分になった。
研修では、常にトップの成績を誇り、最新のインフラ技術も瞬く間に習得していった岡田。何か質問があれば、講師が彼に頼るほどで、同期や先輩社員からも一目置かれる存在だった。
そんな岡田と俺は、どうしても比較されてしまう。
「大原さんの考え方、おじさんみたいですね(笑)。頭を柔らかくして、どんどん吸収していかないとついていけないですよ」
岡田の軽口が、俺の胸に突き刺さる。彼は決して嫌味を言うつもりではなく、純粋に俺を指摘しているのだろう。しかし、その言葉が俺のプライドを打ち砕いていく。
「くそっ!転生しても若手にバカにされるのか……」
俺は心の中で歯ぎしりをしながら、彼の背中を見つめる。新人でありながら、30年のエンジニア歴を持つ俺よりも遥かに早く技術を吸収していくその姿は、俺にとって大きなプレッシャーだった。彼には既に実践経験もあり、即戦力として期待されている。俺や他の新卒のように、新卒研修でテキストで一から学んでいるのとはわけが違う。
だが、それ以上に彼は俺にとって刺激的な存在でもあった。
いつの間にか、岡田に追いつき、追い越すことが、俺の目標になっていた。
> 第2章:クラウドの時代へ続く(更新準備中)
本章に出てきたキーワードの説明
OSI参照モデル
OSI参照モデルは、ネットワーク通信を7つの階層(物理層、データリンク層、ネッワーク層、トランスポート層、セッション層、プレゼンテーション層、アプリケーション層)に分けた概念モデルです。各層が異なる役割を持ち、データ通信を効率化します。
TCP/IPプロトコル TCP/IPは、インターネットで使われる通信プロトコルのセットです。TCP(Transmission Control Protocol)はデータの正確な伝送を、IP(Internet Protocol)はデータの配送先を管理します。これにより、インターネット上でのデータ通信が行われます。
LAN(ローカルエリアネットワーク) LANは、オフィスや家庭内の限られた範囲で使用されるネットワークです。近距離にあるデバイス同士を接続し、ファイル共有やプリンタの利用などが可能になります。
WAN(ワイドエリアネットワーク) WANは、LANと異なり、広範囲にわたるネットワークです。都市や国をまたぐ大規模なネットワークで、インターネットもWANの一例です。
VLAN(仮想LAN) VLANは、物理的に1つのネットワークを仮想的に複数のネットワークに分割する技術です。同じLANに接続されていても、異なるVLANに属するデバイス同士は隔離されます。
VPN(仮想プライベートネットワーク) VPNは、インターネットを経由して安全にデータをやり取りする技術です。暗号化されたトンネルを通じて、外部からアクセスしているかのように、企業や自宅のネットワークに接続できます。
ソフトウェア定義ネットワーク(SDN) SDNは、ネットワークの制御をソフトウェアで行う技術です。ネットワーク機器の設定を手動で行う必要がなく、柔軟にネットワーク構成を変更でき、運用を自動化できます。