
ベテランエンジニアが「老害」とまで呼ばれる中、気づけば新卒のインフラエンジニアとして転生していた物語です。若い体で再びゼロからインフラ技術を学び直す姿を描いています。この物語を通して、インフラエンジニアとしてのスキル習得のロードマップを自然に学ぶことができます。
プロローグ
「もっとわかりやすく説明してくれ!」
会議室で、俺は思わず声を上げていた。
50歳目前のエンジニア、大原常徳。若い頃はシステム開発の最前線で活躍していたが、今や技術の進化に完全に取り残されてしまっていた。会議で飛び交う最新技術の専門用語が頭の中で混じり合い、何が何だかさっぱりわからない。
周りは若手エンジニアたちが自信満々に話し合っている。俺が聞き返した言葉は、彼らにとっては当たり前のことらしい。そんな俺の姿を見て、ちらほらと失笑が漏れ始めた。
「大原さん、それは基本的なことですよ」
冷ややかに言われ、恥ずかしさと苛立ちがこみ上げてくる。かつては誇り高きエンジニアだった俺も、今ではまるで時代遅れの老兵だ。技術の進化についていけず、職場での自信を次第に失っていく日々だった。
今の俺に残されたのは、肩書きだけ。周囲の若手からは「老害」とまで囁かれ、何を言ってもまともに相手にされない。
俺は、新しい技術に適応できず、昔ながらの手法で対応するしかなかった。その結果、仕事の効率は悪化し、いつも作業が終わらず残業続きだった。
一方、若手たちは新しいツールや自動化された技術を使いこなし、俺と同じ量の仕事を驚くほど効率的に片付けていた。彼らは、業務を早々に終えては「飲みに行こうぜ!」と笑い合いながら出かけていく。俺も最初のうちは誘われていたが、仕事が終わらないため「すまん、まだやることがあるんだ」と何度も断っているうちに、誰からも声がかからなくなった。
50歳近くなり、体は以前ほど動かない。眠気と疲労感が積み重なり、俺はエナジードリンクに頼る生活を送っていた。最初は1日1本程度だったが、次第にその量は増えていき、多い日には3~4本を飲んで何とかやり過ごしていた。
エナジードリンクで体力を無理やり繋いでいる状態だった。
エナジードリンクの副作用で出退勤時の俺は、いつもボーっとしていた。朝の通勤電車でも頭の中はぼんやりとしており、夕方の退勤時にはさらに酷い。歩いていても自分がどこに向かっているのか、足がどこに進んでいるのか、意識が追いつかない状態だった。
「エナジードリンク飲むと、翼が生えるんじゃないのか……?」
そうつぶやきながら、俺は今日もまたエナジードリンクを一気に流し込んだ。しかし、体は少しも軽くならない。逆にどんどん重くなるような感覚が、全身に広がっていく。
そんなある日、いつもと同じように疲れ切った体を引きずり、会社を出た俺は、道路を渡ろうとしていた。頭はぼんやりしており、周囲の状況をほとんど認識していなかった。突然、耳元でクラクションが鳴り響いた。
「……え?」
瞬時に目の前に迫ってきた黒い車に気づいたが、反応する間もなく俺は跳ね飛ばされ、宙を舞った。
「……あれ、翼が生えたのか?」
一瞬、そんな錯覚を抱いたが、次の瞬間には重力が俺を引き戻し、現実が襲ってきた。そして、道路に叩きつけられた俺は、意識を失い、そのまま暗闇に飲み込まれていった。
目を覚ました時、俺は見知らぬ部屋にいた。
ぼんやりと天井を見上げ、ゆっくりと体を起こす。周囲を見回すと、なんだか懐かしい光景が広がっていた。狭いアパートの一室、古びたカーテンに木目調のテーブル。どこかで見たことがあるような……。
――思い出した。ここは、俺が大学を出て上京したときに初めて住んだアパートだ。
「なんでここにいるんだ……?」
混乱する俺は、ふと鏡に目をやった。そして、そこで映っていたのは、若々しい自分の姿。シワもなく、髪もふさふさで、体の動きも軽い。あまりに信じられない光景に、思わず鏡に手を伸ばして自分の顔を確認する。
「まさか、若返ってる……?」
頭の中が真っ白になりながらも、視線を彷徨わせていると、テーブルの上に1通の封筒が置かれていることに気づいた。封筒には「辞令」と書かれている。手を震わせながら封筒の中の紙を取り出すと、そこには「インフラソリューション部への配属を命ずる」とはっきりと書かれていた。
「インフラソリューション部……?」
どうやら、今の俺は新入社員で、インフラエンジニアとしてスタートを切るらしい。
前世ではアプリケーション開発が中心。インフラの知識なんてほとんどないまま、新しい世界に飛び込むことになるなんて、想像もしていなかった。
「どうしてこうなったんだ……?」
混乱した頭の中では、さっきまでのことがぐるぐると渦巻いていた。突然、昔住んでいたアパートで目を覚まし、若返って、新卒としてやり直す――夢なら早く覚めてほしい。だが、手元の辞令や鏡に映る若い俺の姿が、これが現実であることを示していた。
「転生したのか…… 」
俺にとって未知の世界。インフラの最前線についていける自信はない。いや、そもそもインフラ自体が得意な分野ではなかったので避けていた面もあった。気持ちばかりが焦る中、頭が真っ白になっていく。
「無理だ……やれるわけがない」
一瞬、そんな弱気な思いが胸をよぎる。だが、俺はふと手元にあった封筒を見つめた。新しい配属先――インフラソリューション部。そこに俺の名前が記されているのを見て、何かが少しずつ変わり始めた気がした。
「……でも、せっかくのチャンスだ。今度こそ、やり直せるかもしれない」
失っていたはずの若さと、新しいキャリアのスタート。いくら技術が分からなくても、前世の経験がゼロになったわけではない。そうだ、まだ俺には時間がある。学び直せる時間が
――もう一度、やり直せるチャンスがある。
「やるしかない……ここで逃げたら、また同じだ」
まだ不安が完全に消えたわけではなかったが、少しずつ前に進もうという気持ちが心の中に湧き上がってきた。新しい世界、最新の技術……それを自分のものにしていけば、きっと変われるはずだ。
俺は深く息を吸い込んで、気持ちを落ち着けると、静かにスーツを手に取った。