
AI技術の進化に伴い、大規模言語モデル(LLM: Large Language Models)は急速に発展し、様々な分野で活用されるようになりました。特に、自然言語処理(NLP)の分野では、LLMの利用が多岐にわたる場面で有効であり、エンジニアにとってその仕組みを深く理解することが非常に重要です。
本記事では、LLMの基本的な仕組みを詳しく解説し、さらに現在利用可能な3大クラウドサービスのLLMツールについても紹介します。これにより、エンジニアがLLMを活用するための基礎知識をしっかりと身につけることができます。
LLMとは?

LLM(大規模言語モデル)は、数百万から数十億単語に及ぶ膨大なテキストデータを学習して、自然言語を理解・生成するAIモデルです。これらのモデルは、人間のように自然な文章を生成したり、質問応答を行ったりする能力を持っています。代表的なLLMとしては、GoogleのBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)やOpenAIのGPT(Generative Pre-trained Transformer)シリーズが挙げられます。これらのモデルは、文脈を正確に把握し、文章の意味を理解する力が非常に高いことで知られています。
また、LLMの応用範囲は広がり続けており、例えば翻訳、要約、チャットボット、自動生成コンテンツ、さらにはプログラムコードの生成にまで及んでいます。エンジニアがこの技術を効果的に活用できるようになるためには、LLMがどのように動作し、どのようなプロセスで自然言語を処理するのかを理解することが不可欠です。
LLMの仕組み

LLMは非常に高度な技術ですが、その基本的な動作原理は次のようなプロセスに分解できます。これらのステップを理解することで、エンジニアはLLMの内部で何が起きているのかを把握しやすくなります。
トークン化:入力文を最小単位に分別
LLMが自然言語を理解するための最初のステップがトークン化です。トークン化とは、入力された文章を最小の単位、つまり「トークン」に分割するプロセスを指します。トークンは単語、句読点、記号、あるいはそれらの一部分であり、モデルが文章を処理しやすい形に変換するために行われます。例えば、「私はAIを勉強しています」という文章は、「私」「は」「AI」「を」「勉強」「して」「います」といったトークンに分けられます。
トークン化は単なる単語の分割ではなく、言語によって異なるルールや特性が存在します。日本語のように、単語と単語の間に明確なスペースが存在しない言語では、トークン化のプロセスがより複雑になります。そのため、LLMは多言語対応のために、言語ごとの特徴に応じたトークン化を実施します。
文脈理解:プロンプト内の各トークンとの関連性を計算
トークン化が行われた後、次に行われるのが文脈理解です。文脈理解とは、トークン同士の関連性を計算し、文章全体の意味を把握するステップです。このプロセスでは、モデルがどのトークンが他のトークンと強く関連しているのかを評価します。
文脈理解において重要な技術が自己注意機構(Self-Attention)です。これは、各トークンが文章内でどの位置にあり、どのトークンと密接に関連しているかを自動的に計算するアルゴリズムです。自己注意機構によって、LLMは文中の単語の相互関係を理解し、例えば「AIを勉強しています」という文では「勉強」と「AI」が密接に関連していると認識します。
この文脈理解のステップが、LLMの高度な自然言語処理能力の要です。これにより、モデルは単純な文法や単語の羅列を超えて、文章全体の意味を理解できるようになります。
エンコード:特徴量の抽出
文脈理解の次に行われるステップがエンコードです。エンコードでは、各トークンから特徴量を抽出し、数値化されたデータとしてモデルに渡されます。特徴量とは、トークンが持つ意味や文脈における役割を数値化したもので、これをもとにモデルは次のステップで予測を行います。
エンコードは、トランスフォーマー(Transformer)と呼ばれるアーキテクチャによって支えられています。トランスフォーマーは、膨大なデータを効率的に処理するために開発されたモデルであり、その中でエンコード処理が行われます。エンコードされた特徴量は、次にくるトークンを予測するための重要なデータです。
デコード:次のトークンを予測
エンコードが終わると、次に行われるのがデコードです。デコードでは、エンコードされた特徴量をもとに、次にどのトークンが出現するかを予測します。このステップが、LLMが「予測」や「生成」を行う部分です。文脈や前のトークンの情報をもとに、次のトークンを最も自然な形で選び出します。
例えば、「AIを勉強しています」という文の次に来る言葉を予測する際、LLMは「。」や「です」など、文を締めくくる言葉が続く可能性が高いと判断します。このように、デコードは文章の一貫性や自然さを保つために非常に重要な役割を果たします。
入力文の次のトークンの確率を出力
デコードが行われた後、モデルは次に来るトークンの確率分布を出力します。これは、次にどのトークンが最も適切かを確率的に評価し、最も高い確率のトークンを選択するプロセスです。この確率計算により、LLMは最も適切なトークンを生成し、文章を続けていくことができます。
この確率出力プロセスは、LLMが自然な文章を生成するための根幹です。例えば、ユーザーが与えたプロンプトに対して、次の言葉を選ぶ際に「人工知能」や「AI」が続く可能性を数値化し、その中で最も高い確率を持つ単語が出力されます。このプロセスを繰り返すことで、LLMは長い文章や会話を生成できるのです。
3大クラウドサービスのLLMツール

現在、LLMはクラウドサービスを通じて簡単に利用できるようになっています。エンジニアは、これらのクラウドプラットフォーム上で提供されるLLMツールを活用することで、AI技術を実践的に応用することが可能です。以下に、代表的な3つのクラウドプラットフォームとそのLLMツールを紹介します。
Google Cloud – Vertex AI
Google Cloudが提供するVertex AIは、LLMを活用して自然言語処理(NLP)のタスクを迅速に実行できるプラットフォームです。Vertex AIは、Googleの先進的な技術を活用しており、BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)などの高度な言語モデルが組み込まれています。
このプラットフォームは、エンジニアがカスタマイズ可能なAIモデルをトレーニングし、さまざまなNLPタスクに応用することを可能にします。例えば、テキスト分類、感情分析、翻訳などが簡単に実行でき、企業のデータに合わせた最適なモデルを作成することが可能です。また、Googleのインフラを利用することで、大規模なデータセットを処理しながら高速なモデルのトレーニングが可能です。
Microsoft Azure – Azure Machine Learning
Azure Machine Learningは、Microsoftが提供するAI開発プラットフォームであり、LLMを活用した自然言語処理が可能です。Azureの強力なインフラと連携して、エンジニアは複雑なNLPタスクを簡単に実行できます。Azure Machine Learningは、ビジネスシーンにおけるAIの応用を支援するために最適化されており、企業向けのAIソリューションとして広く利用されています。
Microsoftは独自の言語モデルを提供しており、それを使ったチャットボット、FAQ生成、翻訳、感情分析などがAzure Machine Learning上で容易に行えます。また、Azureのインフラはセキュリティ面での信頼性も高く、特に機密性の高いデータを扱う企業にとって魅力的な選択肢です。
Amazon Web Services – Amazon SageMaker
Amazon SageMakerは、AWSが提供するAI・機械学習プラットフォームで、LLMを利用したトレーニングとモデルデプロイが可能です。SageMakerは、Amazonの強力なクラウドインフラを基盤としており、大規模な言語モデルのトレーニングを効率的に行えます。
SageMakerは、エンジニアが自分のデータに基づいたカスタムモデルを作成し、運用に必要なNLPタスクを実行するための豊富なツールを提供しています。また、SageMakerは、LLMをデプロイして実際のビジネスプロセスに統合するための強力な機能を備えており、エンドツーエンドでのAIソリューション構築を支援します。
まとめ
大規模言語モデル(LLM)は、トークン化、文脈理解、エンコード、デコード、確率出力といった複数のステップを経て文章を生成する非常に複雑な技術です。しかし、その仕組みを理解することで、エンジニアはLLMを効果的に活用し、様々なビジネスニーズに対応できるようになります。
さらに、Google CloudのVertex AI、Microsoft AzureのAzure Machine Learning、Amazon Web ServicesのSageMakerといったクラウドプラットフォームは、LLMを簡単に利用できるツールを提供しており、エンジニアが迅速にAI技術を実装するための強力な支援を行っています。これらのツールを活用することで、業務の効率化や新たな価値の創出を図ることができるでしょう。